福井県坂井市三国町に佇む旧岸名家は、北前船交易で栄えた三国湊の繁栄を今に伝える貴重な建造物です。材木商として成功を収めた岸名家の邸宅は、当時の豪商の生活と文化を色濃く残しており、訪れる人を江戸時代後期から明治時代へとタイムスリップさせてくれます。
旧岸名家の魅力は、その卓越した建築技術にあります。入口の精巧な扉の作りや、青や赤の鮮やかな塗り壁は、当時の職人の技術の高さを物語っています。特に注目すべきは、水をかけると水色に変化するという珍しい石が敷かれた庭園です。現在では入手困難なこの石材が、岸名家の財力と美意識の高さを示しています。
邸内には、北前船交易によってもたらされた贅沢な調度品が数多く展示されています。中でも特筆すべきは、沈没しても浮き上がる仕組みを持つ「船箪笥」です。家紋が刻まれ、鍵をかけられるこの箪笥は、海上輸送の知恵と商家の実用性が融合した逸品です。また、車輪付きで移動可能な「車箪笥」も、三國の地場産業の粋を集めた味わい深い品です。
旧岸名家では、美しさと機能性が見事に調和しています。書斎や俳句を詠む間、そして内庭は、当時の文化人の風雅な暮らしぶりを偲ばせます。一方で、高価な焼き物で作られた小便器や大便器、五右衛門風呂などの設備は、実用性を重視しつつも贅沢を忘れない商家の姿勢を表しています。
夏の暑さを和らげる隠れた名所が、庭園に設置された水琴窟です。来客用のお手洗いとして使われていたこの設備は、水を流すと微かな琴の音色を奏でます。かつては多くの家に備えられていたという水琴窟の音色は、往時の繁栄と日本人の美意識を今に伝えています。
旧岸名家は、北前船交易によって栄えた三国湊の歴史と文化を体感できる貴重なスポットです。わずか100円で、タイムスリップしたかのような体験ができる旧岸名家へ、ぜひ足を運んでみてください。日本の伝統的な美意識と、商家の実利的な知恵が融合した空間が、きっとあなたを魅了するはずです。