京都御苑は、長年にわたり皇室の方々の住まいとなってきた場所です。その中心に位置する紫宸殿(ししんでん)は、平安時代の貴族文化を今に伝える建築美を誇ります。檜皮葺きの緩やかな曲線を描く屋根が特徴的な寝殿造りの建物は、朱色を基調とした優雅な佇まいで見る者を魅了します。
紫宸殿の最も注目されるのが、春の特別公開時に一般公開される高御座(たかみくら)と御帳台(みちょうだい)です。鮮やかな朱塗りの御座は、かつて天皇が即位の儀式に臨まれた座席で、紫野の渦巻き模様を施した優美な御簾が掛けられています。その前方の御帳台は、宮中の儀式で太政大臣が奏上した詞書を置く台でした。天蓋と呼ばれる立派な飾りが設置され、豪華絢爛な装飾が施されています。
紫宸殿の前庭には、桜と橘の木が植えられています。これらの配置から「左近の桜、右近の橘」と呼ばれるようになったそうです。春には桜の花、秋には橘の実が御殿を彩り、四季折々の風情を醸し出します。昔の貴族たちもこの風景を楽しんだことでしょう。
江戸時代の文献には、かつて蹴鞠の名手が紫宸殿の勾欄の三桁の欄間を鞠ですいすいと通し、さらに棟を越える大技を披露したという逸話も残されています。遥かに昔の遊び心が偲ばれる逸話は、訪れる人々の想像力をくすぐります。
平安貴族の気品と優雅な世界を体感できる紫宸殿。京都を訪れた際には、是非ともこの雅な空間に足を運んでみてはいかがでしょうか。