伊勢湾に面した渥美半島の小さな町に佇む、「寿し兼」。Google mapをたどれば辿り着けるものの、一般道を曲がりくねって行かなければならないその立地から、地元民以外には存在すら知られていない隠れ家的な寿司店である。
店内に足を踏み入れると、座敷から漂うなんとも言えない木の香りにすっと心が落ち着く。カウンターの上の水槽に泳ぐ活きのよい魚たちを眺めているだけで、まるで潮の匂いさえも感じられそうだ。
メニューを開けば、伊勢湾の恵みがひしひしと伝わってくる。その中でも一番のおすすめは、名物の「伊良湖丼」。鮮度抜群の地元の魚介がたっぷりと盛りつけられ、ご飯の上には特製の田舎風だし醤油がかけられている。一口食べれば、潮の香りと上品な旨味がじんわりと広がる絶品の味わいだ。
寿司ネタもまた文句なしの出来映え。一つ一つが大ぶりでしっかりとした存在感があり、素材の味を邪魔しない絶妙な匂い付けと酢飯のバランスに、大将の技に酔いしれずにはいられない。料理に合わせて用意された銘酒と共に、ゆったりと贅沢な時間を過ごせる。
どこかレトロでひなびたたたずまいながら、大将の確かな技と地元の恵みが詰まった「寿し兼」。食通に愛される隠れた名店と呼ぶにふさわしい、まさに渥美半島の味覚の粋を堪能できる場所だ。