大阪城は、戦国時代から続く悠久の歴史と、それに関わる数々の逸話に彩られた、日本を代表する城郭遺産です。中でも注目を集めるのが、本丸の中心に立つ樟(クスノキ)の木です。この樟には、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康という戦国時代の主役たちにまつわる興味深い伝説が伝えられています。
樟の伝説は、大阪城の歴史と密接に関係しています。一説によると、豊臣秀吉が大坂城築城の際、自らの手で植えたと伝えられる樟が、明治維新の大火で枯れてしまいました。この老樟を惜しんだ陸軍第四師団長・小川又次中将が、明治31年(1898年)に新しい樟を植えたのが現在の樟の始まりです。
昭和6年に大阪城天守閣が復興され、本丸が整備されると、この樟は「大阪城の中心木」と位置づけられました。長年の風雨に耐え続けてきた樟は、大阪城の歴史に深くつながる象徴として、多くの人々から親しまれています。
樟には、豪運長足の運勢を呼び込むと言われているだけでなく、城を守護する力があると信じられています。樟の幹には、その神秘的な力を讃えるかのように、縄がきつく巻き付けられています。
古来より樟の木は神聖視され、樟の大樹は神の宿る木と信じられてきました。豪快な幹と緑濃い葉を広げるこの樟を前に、訪れる人々は自然と敬意を抱くことでしょう。
樟の年輪には、大阪城の歴史が刻まれています。激動の時代を生き抜いてきた樟に想いを馳せれば、平和で豊かな時代を願う気持ちが湧いてくるはずです。訪れる人々に大阪城の歴史と伝統を体現する存在として、この樟はいつまでも語り継がれていくでしょう。