北海道野付郡別海町に佇む旧奥行臼駅逓所は、明治時代後期から昭和初期にかけての北海道開拓の歴史を今に伝える貴重な文化遺産です。鉄道も自動車もなかった時代、旅人たちの休憩所や宿泊施設として重要な役割を果たしたこの建物は、今もなお当時の姿を色濃く残しています。
駅逓所の設立者である山﨑氏が新潟から持ち込んだ建築様式は、北海道の厳しい気候に適応しつつも、独特の美しさを放っています。特筆すべきは、寒冷地の建物としては珍しい高い天井。また、当時から使用されている漆塗りの什器の美しさは、今なお訪れる人々を魅了し続けています。
ボランティアガイドの方々による丁寧な説明を聞きながら、各部屋を巡ると、まるで明治時代にタイムスリップしたかのような感覚に陥ります。波打つ手作りの窓ガラスや、陶器のトイレ、手すりのない階段など、随所に当時の生活の息遵を感じることができます。
一度は朽ち果てかけたこの建物ですが、国の史跡指定を機に、別海町が2億7千万円もの費用をかけて修復。その結果、今では北海道の開拓史を語る上で欠かせない存在となっています。
旧奥行臼駅逓所の周辺には、国鉄標津線の奥行臼駅跡や別海町営軌道の駅跡など、鉄道関連の史跡も点在しています。これらも併せて訪れることで、より深く地域の歴史を体感することができるでしょう。
旧奥行臼駅逓所は、単なる古い建物ではありません。それは、北海道の開拓者たちの夢と苦労が詰まった、生きた歴史書とも言えるでしょう。観光地化されすぎず、自然な姿で保存されているこの場所は、北海道の隠れた宝石と呼ぶにふさわしい魅力に溢れています。歴史好きの方はもちろん、建築に興味がある方、そして何より、本物の日本の姿を見たい方にとって、必見のスポットです。ぜひ一度、タイムマシンに乗って、北海道の開拓時代へ旅してみてはいかがでしょうか。