東京の街並みから、一歩その世界に足を踏み入れると、まるで時空を超えたかのような錯覚に陥ってしまいそうな、そんな雰囲気に包まれた焼き鳥店がある。恵比寿西の路地裏に佇む「田吾作」は、木造建築と古びた看板、薄暗い店内が醸し出す昔ながらの情緒に満ちた空間だ。
入り組んだ動線を進むと、カウンターを中心に座敷席が点在する、レトロな佇まいの店内に足を踏み入れる。木の質感が色濃く残る内装に、年季の入ったカウンターが時代の重みを物語っている。
ゆっくりと焼き上げられた焼き鳥の香ばしい香りと、店内に立ち込める煙が、そこかしこにノスタルジックな雰囲気を漂わせている。薄暗い照明に照らされた仄かな光景は、心をなごませてくれる。
食材への高い拘りが感じられる焼き鳥は、ひとつひとつが丁寧に手間暇をかけて焼き上げられている。部位ごとに盛り付けられた串は、火の通り具合がムラなく均一で、見た目にも美しい。
醤油ダレは控えめな塩加減で、すっきりとした味わいながらも、素材本来の旨味を引き立たせている。素材へのリスペクトと、職人技の高さが窺える一品だ。
駅近の立地ながら、格安な価格帯の品揃えが嬉しい。店構えとは裏腹に、品のあるアルコール度数のお酒も楽しめる。地酒のようなほろ酔い感に、心和む時間が流れていく。
時を経ても色あせることのない本物の味と、昭和の香り漂う空間。都会の喧騒から離れ、ほっと一息つける空間で、下町の賑やかな情緒に浸れる田吾作は、そんな大人の隠れ家のような存在だ。