木曽川は、人々の暮らしと深く関わってきた川です。昔は橋がなく、対岸への行き来には渡し船に頼らざるを得ませんでした。愛知県営の西中野渡船場は、そんな時代の名残を感じさせる貴重な場所となっています。
西中野渡船場では、現在も無料で渡し船に乗ることができます。愛知県側には船着き場があり、船頭さんが控えています。一方の岐阜県側では、ポールに旗を立てることで船を呼び寄せる仕組みになっています。
この手作業の呼び込み方式が、現代とはうってかわって素朴な味わいを醸し出しています。橋ができる前は、渡し船が人々の大切な足となっていたことがよくわかります。
対岸へ渡る途中、船上から川面と周囲の景色を眺めると、かつて川が人々の大動脈だった時代にタイムスリップしたような錯覚を覚えるかもしれません。車もない頃、この渡し船に人々はどんな思いを抱いていたのでしょうか。
しかし、この名残りの渡し船も、近くに完成予定の橋ができれば廃止となる運命にあります。2年後には、貴重な体験ができなくなるかもしれません。ここにきて、時の流れの中で色あせゆく人々の思い出を感じずにはいられません。
西中野渡船場での渡し船体験は、昔ながらの生活文化に思いを馳せる良い機会です。一方で、橋の完成による近代化の波は、このような趣深い風物詩を失わせていきます。
懐かしい思い出と新しい価値観の間で、われわれはどう行動すべきでしょうか。このはざまに立つ渡し船から、人々の知恵と生き様を学ぶ良い機会が得られそうです。